郵便局に落とした物が郵送されてきたという話です。
ある日、受け取れなかった荷物を取りに郵便局に行きました。
郵便局が閉まったあとでも「ゆうゆう窓口」は開いているので便利です。すぐに郵便物を受け取ることができました。
その後まったく気がつかなかったのですが、窓口に免許証を提示した際に、財布の中から落とし物をしてしまったんです。
しかも、それを落としたことに数日間気がつきませんでした。
なぜ気がつかなかったかというと、落とした物が普段使う物ではなかったからです。
では、なぜそんな物を財布に入れているかというと、それが重要な物だからです。
普段は使わないがとても重要な物。
それはマイナンバーが書かれた紙切れのことです。
個人情報の塊のくせに、いまだに使い道がよくわからないあいつ。
勤務先に番号を通知して財布にしまったきり、取り出すことがありませんでした。
そのことに腹が立っていたのでしょう。財布の中に閉じ込められていることに我慢ができなくなったマイナンバーの紙切れは、ついに財布から飛び出したのでした。
「これで俺は自由だ。持ち主よ、俺がいなくなった後でその不自由さを思い知るがいい。」
マイナンバーはそう考えて高笑いしました。
しかし、持ち主はまったく不自由さを感じませんでした。
長い時が過ぎ、このままマイナンバーがなくてもまったく問題がないということが証明されるかと思われたある日。
うちに書留が届きました。郵便局からでした。
心当たりがなかったのでなんだろうと思って開けてみると、マイナンバーの紙切れが入っていたのです。あわれ、逃げ回っていたマイナンバーはついに御用となりました。
丁寧に一言メッセージもついていました。どなたかが拾って窓口に預けてくださったようです。
拾ってくれた方、郵便局の方、ありがとうございます。
僕のことをよほどダラシない人だと思ったのか、詐欺への注意喚起のチラシも入っていました。
今回は運良く戻ってきましたが、悪用されるおそれもあります。
今回は拾って保管してもらい、それを僕が気づかなかったところ、郵送してくださいました。しかも書留で。
たかが落し物のためにすごく丁寧に対応していただきました。
以上、郵便局の神対応に感動したという話でした。
えっ、マイナンバーの紙切れがその後どうなったかって?
脱獄に失敗したマイナンバーの紙切れ。彼はもう財布の中に戻ることはできませんでした。
もっと厳しい場所に移されたのです。
“部屋の中の網走刑務所”の異名を持つ「天袋」、ここが彼の新しい住処でした。
ここは「夏物衣類」やら「昔の写真」といった、世の中から忘れ去られた者たちが集められる、とても恐ろしい場所です。
「とんでもないところに来た…」マイナンバーが戸惑っていると、彼を見つけた夏物衣類が声をかけてきました。
「よう新入り。お前はいつまでだ?俺はあと半年でここを出られる。シャバに出たら思いっきり暴れるつもりだ。ま、そのせいでたいてい毎年ここにぶち込まれてるんだけどな。」
マイナンバーは何も答えられませんでした。
昔の写真も話しかけてきました。
「ここに送られるとは運の悪いやつだね。ここには誰もこない、日も当たらない。来るのはネズミかゴキブリだけさ。それでも私は、ときどき懐かしんで会いにきてくれる人がいる。君はどうだね。」
マイナンバーは苦しまぎれに答えました。
「国の…法律が整備されたら、出られると思う…」
そんなの無理だ!夏物衣類と昔の写真は大笑いしました。
こうして、マイナンバーの長い長い忍耐の期間が始まったのです。
はたして、マイナンバーが天袋を出られる日は来るのでしょうか。