情報があふれている中で、どうやったら自分が発信する情報を目立たせることができるでしょうか。
インターネットができてから、情報量が爆発的に増えてます。ものすごい勢いで更新され、それを追っかけている世の中です。
私が子どものころはスマホはおろかネットもありませんでした。だから暇な時間がわりと多く、暇つぶしするものもないので、外に出てアリをいつまでも観察していたり、同じ漫画を何度も読んでいたりしました。
昔は、それこそ古代ローマ時代には、人々は風呂の中で何時間でも政治や哲学の話をしていたそうです。まさに漫画『テルマエロマエ』の世界です。
時代が変わって情報量は格段に増えましたが、それに対して人間が消費できる情報量はあまり変わっていません。
図を見ていただくとわかる通り、平成13年(2001年)から平成16年(2004年)くらいまでは世の中に流通している情報の量と消費されている量がほぼほぼ同じ量だったのに対し、平成17年(2005)年を境に流通情報量が急激に増加しはじめ、平成21年(2009年)には突き抜けています。その量の伸び率は、平成13年(2001年)を100とした場合の198.8%。ほぼ倍です。
一方、情報消費量はというと、多少の伸びはあるものの、ほぼ横ばい。つまり、「人が処理できる情報の量はあまり変わっていないのに、世の中に出回る情報ばかりが増えている」ということになります。
つまり、私たちはたくさんある情報の中から、自分に必要だと思う情報だけを選んで、それ以外は切り捨てているということです。
現代の先進国では情報の供給過多が起こっています。これはつまり、私たちが何かの情報発信しても、それに関心を持ってもらうことが難しくなったということです。
「無関心化」の兆候は日本・米国に見られる。田村氏は、その原因には次のような要素があるのではないかと推察する。
・得られる情報が多すぎて消費者が情報の海に溺れてしまう
・どの製品・サービスを選んでも大して変わらないと思っている情報が多すぎて調べきれない、そしてどれを選んでも変わらないという諦念から、結果的に製品・サービスやそれを提供する企業への執着が薄れるという新たな心理が生まれていると分析する。
このような状況の中で「いかに注目されるか」を考える必要性が出てきました。
今回はこの本のレビューです。
注目されるとは。
注目されるということは、別の言葉で言えば「有名になる」ということであり、または「バズる」とも言えるし、悪い意味では「炎上する」という言葉にも置き換えられます。
まるでキャンプで飯盒炊飯の火を起こすように、言葉の火も、まずは小さい火種を起こしてだんだんと大きくし、それを維持するコツがあります。
私も昔飯盒炊飯をやりましたが、なかなか火を起こせなかったのを覚えています。みんながてこずったり、煙ばかり出て涙目になっている中、ボーイスカウト経験のある1人の子が、手際よく火を起こしていました。
広い野原の、その一点だけが赤々と燃えているので、とても目立ちました。
注目されることもこれと同じで、注目されることがうまい人もいれば、下手な人もいます。
そして、注目の火を起こすには、焚き火と同じ順序があります。
まずは点火し、火種をワラ火に移して、最後に焚き火にするということです。
そのような「注目の働く仕組み」を、本書は解明しようとしています。
注目の火種を起こす
何をするのだとしても、はじめが1番大変です。朝起きるのが大変。休み明けの月曜日が大変。上り坂で自転車こぎ始めるのが大変。机に向かって勉強を始めるのが大変。
人の注目を獲得するのも、はじめが1番大変です。
ですから、注目されるには、はじめに大きなインパクトを相手に与える必要があります。
そのためには、人がもっている「反射神経」に訴えかけます。
たとえば、人は外を歩いてる時、突然大きな音が鳴ったら、誰でも体が勝手に反応します。
この「反射神経」は、もともと生死に関わる出来事が起こった時のために備えられた能力です。
静かな草むらできゃっきゃと遊んでいたら近くで唸り声がする。やべえライオンに狙われてるかも、と。
水辺でうふふと遊んでいたら足に激痛が!見ると蛇に噛まれていた、と。
我々のご先祖様はそういうことに対してとっさに対処して生き残ってきました。感謝ですね。
生死に関わることですから、人の意思とは関係なく、自動的にその対象に注意が振り向けられます。
だからといって「注目を集めるために極端なことをしようぜ」ということかといえば、そうではありません。
キーワードは「連想」です。
私が住んでいるところは新宿区です。繁華街が近くにあります。あらゆる通りに店の看板が並んでいますが、特に目立つのが「赤色の」看板です。
マクドナルド、UNIQLO、ビックカメラ、三菱東京UFJ銀行、ドコモショップ。
TOYOTA、資生堂、コカコーラ、楽天…これは看板ではない。
赤は「血」の色です。血を連想させる色で、無意識に人の注目を引きやすい性質があります。
また、色だけでなく音で注目を引く仕掛けもあります。
街中で急に「ドンッ!」て鳴ったと思って見上げたら映画の広告だったりします。
この「ドン」という音は何かを叩いた時に出る音ですね。注意を引きます。
第二次世界大戦中、連合軍はこの音を使った撹乱作戦を実行しました。
「ゴーストアーミー」と呼ばれる音だけの軍隊です。作戦に参加したのは軍人ではなく、アーティストでした。
ドイツ軍が占拠した街を包囲するように音響機器を配置して、砲弾の音、戦車の音をドンチャカ流しては、ドイツ兵の恐怖を煽るのに大きく貢献したそうです。
人の反射神経に訴える方法は一瞬で大きな注目を集めます。
一方で、これは生死に関わることに反応する能力に訴えるものですから、「特に危険性なし」とわかったとたんに注目度は低くなります。人には「慣れ」がありますからね。
彗星の如く現れて消えていくお笑い芸人も、一発のインパクトは強いのですがその後が続きません。
だから一瞬の火種をつけることに成功したら、すかさず燃えやすいワラに火を移さなければなりません。
ワラ火を起こす
先ほど、人は常に情報を取捨選択していると言いました。
そして、その取捨選択にはある程度パターンがあります。この世に存在はしているが、人によって常に注目する情報と、あまり注目していない情報があるということです。
たとえば、私は男なので、女性向けの情報にはほとんど見向きもしません。百貨店に入ってまず目に飛び込んで来るのは化粧品コーナーであったりブランドショップですが、私はそこを一直線に通り抜けてエスカレーターで本屋や雑貨のある階まで上がってしまいます。
一方、女性は立ち止まっていろいろ見ますよね。その代わり、女性は男性向けの情報には見向きもしません。
たとえば、ゲーセンに行ってもUFOキャッチャーやリズム系には注目しますが、格闘ゲームとかシューティングゲームが置いてあるゾーンはスルーすると思います。
以前、女性と男性の行動パターンの違いを象徴した一枚の画像がバズったことがありました。
上の図がショッピングするときの男性と女性の行動パターンの違いで、下の図は『スカイリム』というゲームをしたときの行動パターンの違いです。
この他にも、以下の記事にいろいろな男女の違いが挙げられていて面白いです。
思わず共感してしまう「男女の違い」を表した画像20枚 / FEELY
男女の例を挙げましたが、誰でもこのような思考パターンを持っていて、それがその人の性格なり考え方になっています。
これを専門用語で「フレーミング」と呼びます。
私たちは、全体の景色から、フレームで切り取った世界を見ているんですね。
そして人は、この「フレーミング」で見ている世界を、良い意味で裏切るものに対して多くの注目を払います。
一番わかりやすい例でいうと、「マジック」がそれに該当します。
私たちは右手にボールを持ったらずっと右手にあるものだと思いますが、マジシャンは必ずその裏をかいてくるので私たちは驚きます。
イッヌ、めちゃめちゃ気になってます。
この「気になる」を引き起こすことで注目度合いを上げることができます。
日本の漫画は本当にこれがうまいと私は思いっています。人気のある漫画は、必ず、予想外な展開が起こるように作られています。
最近ではこの流れもベタになっているので、さらに裏をかくようなシナリオも多い気がします。
一方、あまりにも大きく人々のフレーミングから外れると、逆に注目されなくなる結果を招きます。
『ワシントンポスト』紙が、ある実験をしました。ワシントンDC駅構内で、なんと世界的に有名なバイオリニストのジョシュア・ベルが突然演奏を始めるというものです。ちなみにこれがどれだけお得かというと。
SS席で31000円!それをSS席より身近に、しかもタダで聴けるなんて、なんて素晴らしいんでしょ。
以下は駅構内で行われたチャリティコンサートの様子です。
99.9%がスルーしました。ジョシュア・ベルがこの日に稼いだ金は約30ドル(約3000円)だったとのことです。
なぜこのような結果になったかといえば、人々には「駅で演奏する人はストリートパフォーマーである」というフレーミングを持っていたからです。
このことから、人々がどういう認識を持っているのかを把握し、彼らの判断基準で仕掛ける必要があるということです。もし駅での演奏で注目を浴びようと思うなら、あえて砕けた音楽にする方が効果的です。
この種類の注目の欠点は、「飽きられる」のが早いことです。漫画でもワンパターンだと読者が離れていきます。
悲しいことに人々は飽きるのがとても早いのです。
そのため、フレーミングを使った方法で火を持続させるためには、次々に新しい仕掛けを施していかなくてはなりません。
火を起こすときも、藁は燃え上がるのは早いですが燃え尽きるのも早いです。
カツオは藁火で焼いたほうが旨いですが、カツオばかり食べているわけにもいきません。
そこで、継続的な注目を集めるために、こうした藁火を焚き火に移す必要があります。
焚き火の起こし方
長期的に注目を集める方法、それは「報酬を与える」ことです。
報酬というとお金を思い浮かべるかもしれませんが、お金は数多くある報酬の中の一つでしかありません。
報酬とは、根本的には脳内で起こる“快”の感情のことです。
お金をもらうと「デュフフww」ってなりますよね。この時、脳内では「報酬系」という神経が活発に動いていて、ドーパミンがたくさん出ています。
つまり、ドーパミンが出ることはすべて報酬であるということができます。
褒められること、脳にとっては現金もらうのと同じ効果=研究 / ロイター
自然科学研究機構生理学研究所(愛知県岡崎市)の定藤規弘教授の研究チームが23日、他人から褒められると、ヒトの脳は現金を受け取った場合と同じ部位が活性化するという研究結果を発表した。
人間は報酬をもらえるものに対して長期的な注目を払います。
たとえば、甘いものが好きな人は、甘いものを食べたときに脳は報酬を受け取ってもっと食べたくなります。どんどん太ります。
学校で、先生や親に褒められたり良い成績をとったりするとやる気になってもっと勉強をしようと思います。
会社で一番楽しみな日は給料日です。給料のために仕事やってます。
報酬は行動力の源泉です。
もし、いくら勉強しても誰にも褒められないし成績もつかない、進級もできないとなったら、誰も勉強をしなくなってしまいます。純粋に学問が好きな『さかなクン』くらいしか勉強しないのではないでしょうか。
もし、いくら働いても給料がもらえないとしたら、誰も働こうと思いません。建前としては「やりがいのある仕事をやる」「お客様のためにやる」というのがビジネスですが、やっぱ金でしょ。
私たちは子どものころから20年くらい学問をし、40年くらい仕事をします。それだけ長く一つのことに取り組めるのは、報酬の仕組みがうまく機能しているからです。
このように、報酬は長期にわたって注目を集めるために有効です。
ただし、報酬にはデメリットもあります。
依存症
甘いものを食べ出して歯止めが効かなくなるのは依存症に陥っているからです。
楽しいことをするとドバッとドーパミンが出ますが、脳は「ちょっと出しすぎた」と反省してドーパミン受容体を減らします。
すると、次からはもっとたくさん楽しいことをしないと快楽を得られなくなります。
アルコール中毒や薬物、またSEXや自慰行為にふけって無気力になるのも同じです。
ちなみに、人の悪口を言っても脳の報酬系が活発になります。悪態をつくクセのある人がどんどんエスカレートしていくのは、そうやって自分を慰めているからです。自慰行為ってことです。
他人の人生を生きる
心理学者のアドラーは、承認欲求を否定しました。
つまり「誰かに認められるために頑張るな」ということです。
『嫌われる勇気』を3読して要約。アドラーは人間関係に疲れたら学べ
私たちはより良い評価を得ようとして学問をし、より高い給料を得ようとして仕事をしていますが、心理学的にはそれはニセモノのモチベーションです。なぜなら他人の人生を生きていることだからです。
では、自分の人生を生きるにはどうしたら良いでしょうか。
アドラーは、自分の人生を生きるためには自分が他人のために何ができるかを考えることだと言いました。そして、人が他人のために何かをしようとしている時、それを後押しする「勇気づけ」こそが人のモチベーションに火をつける方法だと言います。
依存でもない、他人の評価に振り回されるでもない、真に長期的な注目を集めるためにすべきことは、相手が「できる」と自発的に考えられるように「勇気を与えること」です。
世の中は少しずつこうした方向に動いてきています。
おわりに
注目は集めるまでは大変ですが、ある程度の段階でそれが「おなじみ」となり人々の意識に定着します。
その時にはすでに無視できない存在になっていて、それがないと「どうしたのか」と心配される存在になります。
たとえば少年ジャンプの『こち亀』が終わってしまってみんなに惜しまれるとか、『HUNTER×HUNTER』が休載することで作者の冨樫義博さんが「富樫仕事しろ」と言われるなど、皆それがない状態を不快に思うようになります。
さらにいえば、あまりにも長く人々の意識に残り続けると今度はそれが「旧態依然」「既得権益」となり、人々に邪魔者扱いされ改革を求める声が上がります。しかしそれはずっとあとの話。