そんな“管理の行き届いた”世界で若者がくすぶるのを僕ら老人は嘲弄するが、自分たちは年金がもらえないもんだから入院して寝たきりになってもパソコンをあてがわれて入院費を稼ぐ毎日。看護師に「就職難だった皆さん、昔働けなかった分、今思い切り働きましょう!」とかいわれて。そんな未来の日本どう
— 尾張慎哉 (@shinyaowari) 2018年6月4日
病室に看護師の声が響き渡る。
「お仕事の時間ですよー。」
「あ、ああ…看護師さん、なんか昨日から指が動かないんじゃよ。ほれ、この通り。」
老人は震える手をベッドから出した。
「もうパソコンを触るのは無理じゃ。」
「あら、そうですか。それじゃあAIスピーカーに代えますね。声で入力ができますよ。『オーケーグーグル』って言ってからお仕事始めてくださいね。」
「そ、そうじゃない。はっきり言おう、わしはもう仕事をしたくないんじゃ。」
「ダメですよ。入院費滞納してるでしょう。お爺さんみたいな人が多いから国の借金が減らないんですよ。お爺さんたちは国を支える貴重な人材なんですから。頑張ってくださいね。」
「違う!国の借金が増えたのはわしらの世代からじゃない。平成に入ってからなんじゃよ。」
「ヘイセイ?ああ、西暦の他に使ってた暦のことでしたっけ。もう、お爺さん。そんな古い時代のことわからないわ。いつも昔の話ばっかり。」
病院の中庭では老人たちがテニスをしている。
院内にも仕事のできる老人とできない老人に分かれ、できる老人は最新の外骨格を購入し、かつての青春を謳歌しているのだ。
院内で最も足の速い老人は100mを5秒で走る。お婆ちゃん達のアイドル的な存在だ。
一方で、仕事のできない老人は入院費を賄うために休む間もない。移動手段は支給された車椅子だけだ。
院内格差、ホスピタルカーストは広がるばかりだ。
中庭でテニスをする老人たちの様子を見ながら、老人は決心した。
(ここを出よう。)
しかし、体が動かない。
考えうる唯一の解決策は、ゲノム編集をすることだ。
一般的に、ゲノム編集は健康寿命を1年延ばすごとにお金がかかる従量課金制となっている。しかもかなり高額だ。
そこへあるベンチャー企業が画期的な商品を販売した。
抽選1回ごとに300円。当たれば寿命がもらえる。
現在キャリーオーバーが発生しており、一等の寿命は10億年だそうだ。
「次はあなたかもしれない」「太陽系より長生きしよう」そんな広告が街に溢れている。
たとえ宝くじだとしても、今の生活よりはマシだ。
老人は300円を握りしめ、迷いのない顔で車椅子に滑り込んだ。