ショートショート(のようなもの)書いたよ

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‪病室に看護師の声が響き渡る。‬

‪「お仕事の時間ですよー。」

‪「あ、ああ…看護師さん、なんか昨日から指が動かないんじゃよ。ほれ、この通り。」

老人は震える手をベッドから出した。

「もうパソコンを触るのは無理じゃ。」

‪「あら、そうですか。それじゃあAIスピーカーに代えますね。声で入力ができますよ。『オーケーグーグル』って言ってからお仕事始めてくださいね。」‬

‪「そ、そうじゃない‬。はっきり言おう、わしはもう仕事をしたくないんじゃ。」

「ダメですよ。入院費滞納してるでしょう。お爺さんみたいな人が多いから国の借金が減らないんですよ。お爺さんたちは国を支える貴重な人材なんですから。頑張ってくださいね。」

「違う!国の借金が増えたのはわしらの世代からじゃない。平成に入ってからなんじゃよ。」

「ヘイセイ?ああ、西暦の他に使ってた暦のことでしたっけ。もう、お爺さん。そんな古い時代のことわからないわ。いつも昔の話ばっかり。」

病院の中庭では老人たちがテニスをしている。

院内にも仕事のできる老人とできない老人に分かれ、できる老人は最新の外骨格を購入し、かつての青春を謳歌しているのだ。

院内で最も足の速い老人は100mを5秒で走る。お婆ちゃん達のアイドル的な存在だ。

一方で、仕事のできない老人は入院費を賄うために休む間もない。移動手段は支給された車椅子だけだ。

院内格差、ホスピタルカーストは広がるばかりだ。

中庭でテニスをする老人たちの様子を見ながら、老人は決心した。

(ここを出よう。)

しかし、体が動かない。

考えうる唯一の解決策は、ゲノム編集をすることだ。

一般的に、ゲノム編集は健康寿命を1年延ばすごとにお金がかかる従量課金制となっている。しかもかなり高額だ。

そこへあるベンチャー企業が画期的な商品を販売した。

抽選1回ごとに300円。当たれば寿命がもらえる。

現在キャリーオーバーが発生しており、一等の寿命は10億年だそうだ。

「次はあなたかもしれない」「太陽系より長生きしよう」そんな広告が街に溢れている。

たとえ宝くじだとしても、今の生活よりはマシだ。

老人は300円を握りしめ、迷いのない顔で車椅子に滑り込んだ。

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