なかなか決断ができない。やることが多すぎて手に負えない。こういうときは、情報を整理すると、決断が早くなり、やるべきことの優先順位がつけられ、ついでにスピーチまでうまくなる。トヨタで取り入れられている方法を使って、問題を解決しよう。
情報社会になって、たくさんの情報を得ることが簡単になった。僕が子供のころはインターネットなんてなくて、わからないことがあれば人に聞くしかなかった。それにはとてつもない勇気を必要とした。
だから当時は、わからないことが出てくると「面倒な仕事が増えた」と感じた。わからないことを見つけた自分を後悔し、「聞くべきか、聞かないべきか」を真剣に悩んだ。そして「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という諺を頭の中で何度も唱えながら思い切って人に聞くか、あるいは「このくらい知らないでも人生になんの影響もない。」と屁理屈をこねて自分を納得させたか、あるいは知ったかぶった。
だからインターネットの登場は衝撃だった。知りたい言葉を「検索」すればGoogle先生がなんでも答えてくれる。いや、人生の悩みについては的外れな答えしか返してくれないけど、それ以外だったら、たいてい知ってる。20年前までは人に聞くためにタイミングやおうかがいの立て方を綿密に計画して質問していたことは、今や思いついた時に布団の中でスマホの画面をタップすれば済む。そして終わったらスマホを放り投げても誰にも失礼にならない。むしろ今は、人に聞くと「ググれ。」と怒られてしまうほどだ。この20年間、日本経済は失われていたけど、こんな大きな変化があったのだ。
大きな変化があって、情報量は格段に増えたけど、あまりに多すぎて、まとめるのが難しくなった。さらに情報が増えるにつれて詐欺や悪口も格段に増えた。ちょっと気をぬくと、調べ物をしていたはずが誰かのスキャンダル記事を延々と見続けているなんてことすらある。
昔は少ない情報しかなかったから、特に気をつけないでも、慎ましく、平和な暮らしをしていた気がする。だけど今は放っておいたら向こうからどんどん情報が流れてきて、こちらを揺さぶってくる。まるで洪水のように、言葉が濁流となって押し流そうとしてくる。のんびり暮らしたくても、なかなかそうはさせてくれない。
だからといって手をこまねいているわけにはいかない。情報に踊らされているのでは「情弱」のレッテルを貼られてしまう。何か対策を講じなければ。川の流れが穏やかな時は川に入ってザリガニを釣っているのが楽しかったが、今は濁流なんだから釣りでは楽しめない。ゴムボートを担いでラフティングする技術を持ってこそ、楽しめる世の中だ。
トヨタの情報整理術
トヨタでは、変革期、つまり1960年〜1970年の高度成長期の終わりの時期に、ちょっとした混乱があった。貿易の自由化に伴い外国車の輸入が認められたのだ。さらに為替は固定相場から変動相場制に移行。ガソリン価格に影響を与えたオイルショックも起こったし、車の排気ガスによる大気汚染問題が社会問題化したのもこの時期だ。当時の新聞に載っていたサザエさんの4コマ漫画で「光化学スモッグ」がしょっちゅう取り上げられていることを、世代ではない僕も知っている。
自動車業界を取り巻く環境が目まぐるしく変わり、役員会の会議では連日のように解決すべき課題が出てきた。しかも社員の知識にない議題ばかりがあがる。たとえば「貿易自由化」というキーワードが出てきたところで、それがどういうものかわからない。社員一人一人が各自で知識を身につけるには、課題が多すぎた。そこで、みんなで知識を共有するために勉強会を開くことになった。
このとき、要点がまとめられていたのが1枚のA3用紙だった。
紙一枚からは余分な情報がそぎ落とされ、厳選された情報だけが載っていた。誰にでも一目で理解することができた。
以降、トヨタでは業務上の書類はすべて紙一枚に収める、という習慣が企業文化として根付いている。
紙一枚にまとめるのは、情報整理のためだ。または考えを整理するため。多くの情報の中から厳選された情報だけが載るため、一目で理解することができる。考え抜かれた1枚が、仕事の質と効率を高める。
実践!情報整理
情報を整理して決断する
では、簡単な例で実践してみよう。今ここに深刻な議題がある。それは、「今日のお昼ご飯に何を食べるべきか」ということだ。
肉にするか、野菜にするか、魚にするか。考えれば考えるほど頭の中が複雑になって、どうやっても決めることができない。このままでは餓死してしまうかもしれない。そんなときは、紙に書くことだ。
まず、紙を1枚用意して、8つのフレームに区切る。
次に、左上のマスに「日付」と「テーマ」を記入する。
残りの7つのフレームに答えをどんどん書いていく。ポイントは、「考えないこと」だ。
こうすることで、頭の中の情報を全部出すことができる。複雑な考えが紙一枚に収まって、見やすくなっているはずだ。こうしてあぶり出されたキーワードを見ていると、思考が動き出す。
「なんか油っぽいものが多いな。ていうか丼物ばっかじゃん!魚、しばらく食べてないな。」
じゃあ魚にしよう。
スピーチの原稿を作る
「エクセル1」と名付けられたこの表は、様々な場面で使うことができる。
たとえば、スピーチの原稿を作るとき。
各マスに、話したい内容を書き込んでいこう。
ためしに本書『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』の紹介文を作ってみる。
マスが足りなかったら増やそう。キーワードが出揃ったら、各キーワードをつないで文章をつくる。つなげる順番は決まっていないし、使わないキーワードがあってもかまわない。キーワードをつなげていくと、以下のような紹介文が完成する。
ちなみにこの方法は、ブログ記事を書くときにも役に立つ。バラバラな情報を一度紙に書いて、それをつなげて一つの記事に仕上げるのだ。
仕事の優先順位をつける
エクセル1は仕事の優先順位をつけるときにも使える。
やるべきことをマスに書き込んでいく。
この中で「重要なものはどれか?」「今日中に対応しないとまずいものはどれか?」「放っておくとまずいものはどれか?」と自問し、優先順位の高いものから手を付けていく。
本書では、仕事でこれを実践し、残業時間がなくなった人がいるとのことだ。
トヨタの一枚に共通の5つのテーマ
簡単な例を挙げてきたが、トヨタでは紙一枚をどのように使っているのか。世界企業トヨタのやり方を真似すれば、やりたいことがどんどん進んでいくに違いない。
トヨタの一枚には共通の5つのテーマがある。
どの書類にもこの5つが盛り込まれており、これがクリアになりさえすれば、あとは行動だけ。するとその仕事は進んでいく。
5つのテーマについて、先ほどのエクセル1を使って、それぞれに厳選した情報を載せていくようにしよう。
紙一枚にまとめることは、わかりやすさでもある。それは人に伝わりやすいということにつながる。
おわりに
紙一枚にまとめようがまとめまいが、その瞬間何か違いが出るわけではないが、一年、二年と長い目で見ると大きな差が生まれるのが「計画する」ことの効果なのだと思う。
時間はあっという間に過ぎていくから、計画的にいきたいですね。