「話がうまい人には特別な才能があるのだ。私が口下手なのは才能がないからだ。」と思うのは間違いです。実際は、伝え方にはシンプルな技術があって、誰にでも習得できます。
話のうまさは一部の人しかもっていないセンスではなく、誰でも学ぶことで上達するスキルだ。自分の意見をそのまま伝えると相手に「ノー」としか言われないことも、伝え方次第で「イエス」に変えることができる。
というのが、ベストセラーのこの本です。
まとめました。
3つの原則
自分の言いたいことを相手に上手に伝えるためには、次の3つの段階を踏まえることが大原則です。
1.思っていることをそのまま口にしない
たとえば子どもに言うことを聞いて欲しい時、そのまま「言うことを聞きなさい!」と言ってしまっては、当然相手の反応は「ノー」になってしまいます。
2.相手の頭の中を想像する
相手は何が好きか?何が嫌いか?どんな性格か?などを把握します。
3.自分の伝えたいことと、相手のメリットが一致するお願いを作る
たとえば子どもを病院に連れていかなければならないとき、「さあ!お医者さんでマズイ薬をもらって、さっさと治そうよ!」なんて直接的に言ったら当然嫌がられるわけで、そうではなくて、相手の好きなものを考えます。
もし子どもが遊ぶ元気もなくなっていたとしたら、「お医者さんでお風邪を治してみんなとまた遊ぼうね。」と言えば病院に連れて行きやすい、というわけです。
実際、私は子どものころ、近所の病院にトランポリンがあって、それで遊ぶことが病院に行く楽しみの一つでもありました。具合が悪いのに無理して跳ねていた記憶があります。
なぜならトランポリンはその病院にしかなく、そのときに跳ねておかないと次に病気になるまで跳ねることができないからです。人間というのは、楽しみのためならどんなリスクも厭わない生き物なのだ!
さて、お願いはいつも、自分と相手の合作でなければならないといいます。自分のお願いと相手のメリットが一致するとき、はじめて「イエス!」と言ってもらうことができます。答えは相手の中にあります。
7つの切り口
こうした言い回しは、たまたま思いつくものではありません。意図して作ることができるものです。本書では7つのテクニックを紹介しています。
1.相手の好きなことで誘う
先ほどの「お風邪を治して遊ぼう。」が一つの例です。
2.嫌なものを回避したい気持ちを使う
それをしないと損をしますよ、という気持ちを起こさせます。「早く風邪を治さないと、大好きなハンバーグが食べられなくなっちゃうよ」といった使い方です。
3.選択の自由を与える
好きなものを2つ並べて選ばせる方法です。
人は「決断」は苦手ですが「比較」は好きです。
つまり「病院に行くよ!」と相手の決断を迫るより、「クマさんのぬいぐるみがある病院か、ネコさんの本がある病院、どっちにしようか?」と比較をしてもらう方が相手の了承を得やすいと言うのです。
4.認められたい欲求に訴える
人は認められると嬉しいです。
「頑張ってちゃんと病院に行ったら偉いなー」と言って、寝てる子を起こす方法。
5.あなた限定
相手が寂しがりだったり、自分が好きな場合に効果を発揮します。やっぱり人は「限定」に弱いです。
6.チームワーク化
「いっしょにやろう。」と言うことです。相手がめんどくさがっていたり、すぐやる必要がないと思っている場合に効果的です。
7.「ありがとう」を言ってしまう
先に「ありがとう」を言われると断りづらい、ちょっと大人の作法です。駅のトイレには「いつもキレイに使っていただき、ありがとうございます。」と書かれているのをよく見かけますね。
言葉を強くする8つの方法
ここまでが、上手にお願いするための切り口です。
本書ではさらに、「強い言葉の作り方」が紹介されます。
おいしい料理にレシピがあるように、相手を感動させる言葉、動かす言葉にもレシピがあります。
感動的な言葉を紡げるのはもともとの才能ではなく、技術だといいます。
具体的には、「言葉に高低をつける」ということです。
高低差にエネルギーが生じて、それが言葉の強さになります。
一番わかりやすいたとえは漫才ですね。くだらない「ボケ」と真面目な「ツッコミ」。
この二人の会話には高低差があって、くだらなさと真面目さの掛け合いは、話を聞いている観客を上げたり下げたり、まるでジェットコースターに乗ったかのような楽しさを味わわせます。
もしこれがボケだけで、またはツッコミだけで延々とくだらないことをやっていたらつまらないと思います。
なぜつまらないかというと、話に抑揚がないからです。
言葉に抑揚を付ける方法を、本書では8つ紹介しています。
1.サプライズ法
JRの広告「そうだ、京都行こう」が有名です。単純に「京都行こう」と言うだけでは平凡ですが、サプライズキーワードの「そうだ」で一回上げてから「京都行こう」と落とすことで高低差を付けます。
2.ギャップ法
正反対の言葉をくっつける方法。
たとえば「誰が敵になろうとも、私だけは味方だ。」は、ただ「私は味方だ」と言うより強い印象を与えます。
言葉ではないですが、漫画や映画がこのギャップを多用しています。「強大な悪に立ち向かう少年たち」はよくある設定ですね。
「美女と野獣」「のび太とドラえもん」といった正反対のキャラを組み合わせてギャップを利かせた作品は、探せばいくらでも出てくるし、人気作品ほどこの傾向が強いです。昔の作品を見ても、「熱血の金八先生とやる気のない不良生徒」「フーテンの寅さんと才色兼備のマドンナ」「勇敢な七人の侍と卑屈な百姓たち」など、時代を超えて使われている普遍的な方法だとも見ることができます。
3.赤裸々法
詩や小説のように、言葉に体温を持たせる方法。
本書では、西野カナの「会いたくて会いたくて震える」という歌詞を例に挙げています。「会いたい」と思った時の体の反応を赤裸々に描くことで有名になったフレーズです。
「会いたい」時の体の反応は様々で「顔が赤くなる」「のどがカラカラになる」「緊張する」「頭が真っ白になる」などがありますが、その中で一番ハマるものをくっつけるのだといいます。
このように、詩や小説も才能ではなく技術なのだといいます。「西」つながりで思い出しましたが、小説家の西加奈子さんは、「小説は、ニュースの取りこぼす内容を書くことだ」と言いました。
ニュースは感情を排除して事実を淡々と述べるだけですが、そこに含まれる心理を描写したら、言葉に深みが出て、読者に何かしら思い入れを残す、小説が出来ます。
4.リピート法
伝えたい言葉を繰り返すことで強調する方法。
「今日は暑い」と言うより「今日は暑い、暑い。」と重ねた方がぐっと暑さが伝わるといいます。
確かに、暑い日にひたすら「あー、あっちー!今日あっちーな!まじ暑いわ!」と繰り返す人がいるけど、あれを聞いているとこっちまで暑くなってきますね。
5.クライマックス法
サプライズ法に似ていますが、クライマックスキーワードというものを付けることで聞き手の注意を引く方法です。
人の集中力は15分と言われていて、話をしている途中で聞き手の注意が散漫になることがあります。
そういう時、クライマックスキーワードの「ここだけは聞いて欲しいのですが」とか「ポイントが3つあります」などを付けることで注意喚起をする方法です。
6.ナンバー法
「ひとつぶ300メートル」「101匹わんちゃん」「3本の矢」「7不思議」など、広告やタイトル、政策の多くに数字が入っているのはインパクトを増すためです。
数字には、人の印象に残りやすいという性質があります。
さらに、偶数より奇数の法がエッジが聞いて印象に残るらしい。確かに「3本の矢」を「2本の矢」にしてしまうとなぜか微妙です。
7.合体法
世の中の新しい言葉のほとんどは、二つの言葉を合体させてできるのだといいます。
「ゆるい」と「キャラクター」を合体させて「ゆるキャラ」、「妖怪」と「ウォッチ」を合体させて「妖怪ウォッチ」。単体では当たり前の言葉を、合体させることで新しい言葉に変える方法です。
二つを合わせて別の新しいものを作る。これは言葉だけでなく全ての新しいものがそうしてできているようです。男と女が合わさって子どもができるしね。そう考えると哲学的ですね。
8.頂上法
トップであることを強調します。
なにも世界一である必要はありません。街で「地域ナンバー1!」という広告をよく見かけるように、世界→国→県→地元と見て行った時にどこかしらナンバーワンになれる場所があるので、そこを強調します。
洗剤の「トップ」はなにで一番なのかはわからないが、たしかに頭に残る商品名だと思います。他にも「一番搾り」「世界一受けたい授業」もあえて「頂上」を強調することで印象付けている。これらの例でわかるように、頂上であるとする根拠は何でもいいんだと思う。
おわりに
個人的にも気づきが多い本で、備忘録も兼ねてまとめたら長くなりました。
この本の要旨は、「自分の手で、言葉を生み出そう」ということです。この本の内容を発展させていくと、マーケティングやコピーライティングの話になっていくのだと思います。
シリーズいくつ出しとんねん。