引きつけられる話を分解すると、3つのストーリーが含まれていることがわかる

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映画を観に行くことが多い。どの映画も面白い。なぜなら、どうやったら面白い作品が出来るのか、作る側がわかってシナリオを作成しているからだ。

ハリウッドもビジネスだ。会社が生き残るためには、行き当たりばったりの作品を作るわけにはいかない。「これめっちゃ人気でそうじゃん?」というノリで何十億も制作費をかけて映画を作っているわけではない。彼らには、確実に成功させるためのノウハウがある。

製造業には、人々が安心して商品を使えるように品質管理のコンプライアンスがある。

サービス業には、人々が心地よいサービスを受けられるよう「おもてなし」のマニュアルがある。

医者は人々の病気を治す知識を持っている。

レストランにはうまい料理を作るレシピがある。

同じように、ハリウッドは人々が面白いと感じるテンプレートを持っている。

その基本中の基本は以下の3つだ。

1.何かが欠落した、または欠落させられた主人公

2.主人公がなんとしてもやり遂げようとする遠く険しい目標・ゴール

3.乗り越えなければならない数多くの葛藤・障害・敵対するもの

どの映画もこのテンプレートに従って作成されている。だから、悪く言えばどれも似たような作品になっているのだ。

これは映画の話だけではない。漫画、ゲーム、ドラマ、演劇、スポーツ、成功するエンターテイメントの多くはこの3要素が入っている。

そして、人々の関心を得る必要がある演説にも、この方法は使われている。

面白い映画には人がたくさん集まり、歴史に残る。同じように、感動的な演説は多くの支持を得、その人のキャラクターを聴衆に強く印象付け、後々まで語られる。

たとえば、スティーブ・ジョブズの「伝説のスピーチ」

オバマ大統領の「Yes we can」で有名な大統領選挙演説。ジョン・F・ケネディ元大統領の大統領就任演説などなど。

世の中に強い影響力を与えた演説は、話の内容に映画のようなストーリーがあり、人々が面白いと感じる3要素が入っている。

実際に演説を3つの要素に分析してみる

日本の演説の歴史は浅く、福沢諭吉がはじめて持ち込んだと言われている。福澤諭吉が友人と演説の練習をしたとき、話している様子が滑稽で笑いをこらえることができなかったという。

今でも、日本人はあまりスピーチが上手くない。でも、うまい人は確かにいて、そういう人の政策は日本を大きく動かした。

2007年、郵政民営化が実現した。政策を主導したのは小泉元首相。これが成功したのは、一つは演説の効果が大きかったからだと言われている。もともと話がうまい方だけど、この演説を分析すると、3つの要素がしっかり入っていることがわかる。はしょりながら原文を見てみよう。

本日、衆議院を解散いたしました。
 それは、私が改革の本丸と位置づけてきました郵政民営化法案、参議院で否決されました。
 いわば、国会は「郵政民営化、必要ない」という判断を下したわけであります。

 私は、本当に国民のみなさんが、この郵政民営化が必要ないのか、国民のみなさんに訊いてみたいと思います。
 いわば、今回の解散は郵政解散であります。
 郵政民営化に賛成してくれるのか、反対するのか、これをはっきりと国民のみなさまに問いたいと思います。

 私は、4年前の総裁選において、「自民党を変える、変わらなければぶっ壊す」と言ったんです。
 その「変える」という趣旨は、今まで全政党が郵政民営化に反対してまいりました。なぜ「民間にできることは民間に」と言っておきながら、この郵政三事業だけは民営化してはならない、と。
 私は、これ、不思議でなりませんでした。郵便局の仕事は本当に公務員でなくてはできないのか、役人でなくてはできないのか。

 私は、この郵政民営化よりも「もっと大事なことがある」と言う人をたくさんいますのを知っています。
 しかし、この郵政事業を民営化できないで、どんな大改革ができるんですか。
 「役人じゃなきゃできない」「公務員じゃなきゃ、公共的な、大事なサービスは維持できない」。それこそ、まさに官尊民卑の思想です。民間人にこれは失礼だと思います。

私は4年前の総裁選挙にいたときから、この民営化の主張を展開して、「郵政民営化が嫌だったなら、私を替えてくれ」と言っていながら、なおかつ自由民主党は私を総裁選で総裁に選出したんです。
 にもかかわらず、いまだにそもそも民営化に反対だ。
「民間にできることは民間に」と言った民主党までもが「公社のままがいい」と言い出した。
 おかしいじゃないですか。

 約400年前、ガリレオ・ガリレイは、天動説の中で「地球は動く」という地動説を発表して、有罪判決を受けました。
 そのときガリレオは「それでも地球は動く」と言ったそうであります。
 私は今、国会で「郵政民営化、必要ない」という結論を出されましたけれど、もう一度、国民に訊いてみたいと思います。
 本当に郵便局の仕事は国家公務員じゃなきゃできないのか、民間人ではやっちゃいけないのか。
 これができないで、どんな公務員削減ができるでしょうか。どういう行政改革ができるでしょうか。
 これができなくて「もっと大事なことがある」?
 もっと大事なこと? 公務員の特権を守ろうとしているんじゃないですか。
 国家公務員の身分を守ろうとしているんじゃないですか、反対勢力は。

 そういう既得権を守る、現状維持がいい、そういう勢力と闘って、本当に改革政党になる。
 自民党はなったんだと、そういうことから国民に今回の選挙で訊いてみたいと思います。
 そして、この郵政民営化に賛成する自由民主党・公明党が国民の支持を得て、過半数の勢力を得る事ができれば、再度、選挙終了後、国会を開いて、これを成立させるよう努力していきたいと思います。以上であります。

冒頭から、「1.何かが欠落した、または欠落させられた主人公」が強調されている。小泉劇場の始まりである。郵政民営化は否決された。チャイコフスキーの「弦楽セレナード」がバックミュージックとして流れていても絵になるくらい、悲惨な主人公。

しかし、郵政民営化は長年の悲願である。けしてあきらめない(2.主人公がなんとしてもやり遂げようとする遠く険しい目標・ゴール)。国民の皆さん、オラに元気を分けてくれ!

敵は既得権益の甘い汁を吸っている奴らだ。闇の支配に必ず勝利し、平和な世界を取り戻してみせる!(3.乗り越えなければならない数多くの葛藤・障害・敵対するもの)

このようなストーリーで、「1.自分はどういう立場なのか」「2.目的はなんなのか」「3.障害はなんなのか」をハッキリさせた。聞いている人は、物語に引き込まれた。

結局、総選挙で自民党は圧勝した。自民党内にも郵政民営化に反対する人は多かったし、郵政改革より大事な課題があったにもかかわらず、だ。

選挙中は与党候補は一貫して郵政民営化を訴え、郵政民営化を国民的議題に乗せ、郵政民営化を問う選挙にすることに成功した。解散当初は自民党の分裂選挙で民主党が漁夫の利を得ると思われていたが、自民党の分裂選挙が大きく注目されて郵政民営化が選挙の争点となったため、法案審議中に郵政改革に対して明白な政策を打ち出していなかった民主党は自民党の分裂選挙に完全に埋没した。

おわりに

人に感動を与えるストーリーに必要な3要素は以下の通り。

1.何かが欠落した、または欠落させられた主人公

2.主人公がなんとしてもやり遂げようとする遠く険しい目標・ゴール

3.乗り越えなければならない数多くの葛藤・障害・敵対するもの

最近は、安倍首相のスピーチが世界的に評価されている。スピーチの原稿には、元ジャーナリストの方がスピーチライターとして付くことが多く、まるで映画の脚本のように、人を感動させる技術があちこちに散りばめられている。

そうしてようやく、世界的に通用する「しゃべり」ができる。日本独特の「しゃべり」の文化とうまく合わせて、世界に出られないだろうか。「しゃべり」がいまだに世界に理解されてないのは、とてももったいないと思う。

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