高尾山頂から見える、富士山の上に日が沈む『ダイヤモンド富士』を鏡餅のようだと思っていた件

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唐突に山に行きたくなる時があります。

「そうだ、山登ろう」ぐらいの勢いでなんの支度もせずに1000円だけ持って外に出てしまいます。

なぜなら、東京には高尾山があるからです。

新宿から京王線で1時間弱、世界で最も登山客が多い高尾山の麓に着きます。

交通費がバカ安い上、大人の足なら1時間で登れる標高599mの小さな山。半日で手軽に自然を味わえるスポットです。

年末のこの時期に是非見ておきたいのが、「ダイヤモンド富士」です。

高尾山は小さな山ですが山頂は開けていて、遠くの景色がよく見えます。山々が連なっている先に富士山の姿を望むことができます。

12月17日〜26日の間で、天気の良い日の日没にタイミングよく居合わせると、富士山のちょうど真後ろに太陽が沈んでいくんですね。

関東の富士見百景 | 国土交通省

その姿がダイヤモンドを頂いてるように見えるということで、「ダイヤモンド富士」と名付けられました。

ただ、私には「鏡餅」に見えましたけどね。

喧騒から離れた静かな場所で山の背後にゆっくり消えていく太陽を見続けていると、自分の気持ちも落ち着いてきます。

その場に居合わせている人全員が同じ景色を見ているという一体感も、普段の生活では味わえないものですね。

初めてダイヤモンド富士を見たときの話

私が初めてダイヤモンド富士を見たのは2年前の12月30日。全く予期してませんでした。

午後2時ごろ、家にいるのが嫌になってきて急に外へ飛び出し、いつの間にか登っていました。

山頂に着くと展望台がある方に人だかりができていました。20人くらい。ある人はカメラを構え、ある人は片手にビール片手に焼き鳥を持って何かを待っているようでした。

イベントでもやるのかと私は思いましたが、それより私は山頂にいたネコやカニに気を取られて展望台の方には行きませんでした。街や水辺で見かける生き物が山頂にいることが不思議でしたが、彼らにはそれが当たり前のようでした。

しばらくするとザワザワと歓声が湧き上がります。声のする方は夕日が眩しくて何が起こっているかよくわかりません。

「もうちょっとだね。もうちょっと経てばちょうどいいんだけど。」

誰かがそう言っています。

目をこらすと太陽の下に富士山がうっすらと見えました。人々はその一点を熱心に見守っています。太陽の足は速く、みるみるうちに富士山に腰をすえるような形になり、そのまま沈んで行こうとします。

太陽が欠けるほど、日の光が抑えられて富士山の形がよく見えるようになってきました。

(鏡餅のようだ)

私はそう思いました。三角の形をした山の上に丸くて黄色い太陽が乗っかっている姿は、自然が形作る縁起物ではないか。みんなこれを待っていたのかと納得して何枚か写真を撮りました。

縁起物を眺めていたらいつの間にか時間が経っていました。日は沈もうとしています。少し焦って、下山することにしました。

かなり速いペースで降りて行きました。遅い時間でもあったので、徒歩で下山している人はほとんどいません。途中、カメラを持ったおじいさんを追い抜きました。追い抜きましたが、その先が沢になっていて歩くペースが遅くなりました。すると後ろから声をかけられました。

「ダイヤモンド富士は、見ましたか。」

あたりは暗くなりかけていましたが、おじいさんの声はとても落ち着いていました。私はダイヤモンド富士がなんのことかわからなかったので、見てませんと答えました。

おじいさんは持っていたカメラを私に向けて、「写真を撮ったんです」と見せてくれました。その時ようやく、私が山頂で見たものは鏡餅のミカンではなくダイヤモンドだったということがわかりました。

私がおじいさんに「よく来られるのですか。」と聞くと「もう何十年も登り続けています。」と言いました。

「もうこの時期だと、山頂から見える太陽は富士山の斜面を転がるように沈んでいきます。でも、ある秘密の場所からは富士山の真上に太陽が乗るんですよ。」

学校の先生をされていたというおじいさんは、今も趣味で山の景色や草花を写真に収めているそうです。

おわりに

初詣に高尾山に登る方も多いといいます。年始に山頂から見えるダイヤモンド富士は、少し時期がずれているため山頂にダイヤモンドが綺麗に乗りません。

もし、年始に山頂を目指す登山客の中に脇道に逸れていくおじいさんがいたとしたら、そっちは秘密の場所に通じているかもしれませんね。

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