難しいことを面白く伝えられたら指導者として合格

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「今日は久々に面白い話が出来そうです。」
そう言って、44年間の指導者人生から得た教訓を話してくれたのは、元卓球女子日本代表監督であり、東京富士大学教授の西村卓二さんだ。

今回は、先日聞いた西村さんの講演内容をまとめたいと思う。テーマは「指導」だ。人を育て、動かすにはどのような考え方を持つべきかを話していただいた。

この講演、聴衆の反応が良かったことも手伝い、はじめこそ「只今ご紹介に預かりました西村と申します。この度は…」と堅苦しい雰囲気だったものの、最後には盛大な拍手に「こんなに拍手をもらったのは結婚式以来です。」と冗談が飛ぶほど和やかな時間となった。

「世界選手権の舞台に立った時の緊張感を持って話します」と時間ギリギリまで話していただいたその熱までは伝えられないかも知れないが、以下、記録したノートを整理したもの。

知識は学問から、人格はスポーツから

難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く伝えられたら指導者として合格。

より難解に伝えようとする指導者が多いが、それでは伝わらない。

小を軽視しない

毎日1mmで良いから進み続けること。毎日自己新記録を作ることを目指す。

自分で考えさせる

オーバーティーチングをしてはいけない。監督は選手のいろいろなところが目に付くのであれこれ口出しをしがちだが、選手自身が考えるように導かなければ選手自身の成長につながらない。

ライバルを作る

ライバルを作ることで本人の向上心を芽生えさせることが出来る。一番のライバルは、自分。自分の「めんどくさい」を克服すること。

ピンチはチャンス

ピンチに陥るのには必ず理由がある。その原因を探り出すことが出来れば、自分を再デザインするチャンスにすることができる。

言葉がけ

かけた言葉で相手が化学反応を起こして変化できるかを念頭に置く。自分が言いたいことを言いたいだけ言う人がいるが、それはオーバーティーチングになってしまう。どんな言葉で相手が変わるかは、人によって違う。だから相手をよく知らなければならない。

そして、余計なことは言わない。一般的に、女性は「いたわりの言葉」、男性は「ピカっと光る一言(名言のようなもの)」が受け入れられやすい。

失敗例として、世界選手権で福原愛が試合に勝った時の私の言葉がけを挙げる。当時、やや天狗になっていた福原をなんとかしようと、大会後に試合中のミスを叱った。すると福原は首をかしげた。「なに言ってんだこのおっさん」という感じだった。私の意図は伝わらなかった。福原に変化が起こらなかったから、この言葉がけは失敗だ。

鉄は熱いうちに打て

始めたばかりで何もかもが新鮮なうちに指導を集中すること。慣れてきてからは何を言っても聞かない。叱ると誉めるはバランスよく。叱ってばかりで落胆させてはいけないし、誉めてばかりで天狗にさせてもいけない。

チームは生き物

「今日はいいな」と思っても明日には変わってしまうのが人間。その逆もある。今日はいいから明日も大丈夫だろうと油断していると舵取りができなくなる。「人は変わる」ということを念頭に置いて、どんな状況になるとしても対応できるように準備をしておく。

テーマが必要

全体が足並みを揃えて走って行くためには、チームのテーマが必要。一つを決めたら、それを全体で守るように意識付けをしていくとまとまるようになる。

選手と監督のキャリアは違う

一流の選手が一流の監督になるとは限らない。私も選手としてのキャリアは全国大会で即敗退するくらいのものしかない。つまり、自分より技術が上の人たちを指導していくことになる。だから、監督は選手の100倍は勉強をしなければならない。

孤独に耐える

私が日本代表監督に選ばれた時には、いろいろな事を言われた。また、いたずら電話もあった。妻はそういう世界を知らないから、頼りにすることは出来なかった。すべての問題を自分で解決しなければならない。これら困難に耐えるには、強い信念が必要。

見えないものを見る

その選手が何を考えているのかをわからなければ、育成はできない。相手に合わせて言葉がけもするからだ。そのためには洞察力が必要。

選手との距離

近づきすぎると馴れ合いになる。離れ過ぎると把握ができない。絶妙なバランスの距離をいつも模索している。

区別と差別

レギュラーを取れない子もいる。技術のある子を試合に出す。そこは区別しなければならない。しかし、人として差別してはいけない。「同じくチームの一員であり、出ていない人が大事である」ことを、チーム全体に意識付ける。

ピグマリオン効果

指導者には思い込みがなければならない。「この組織を強くしたい」という思い込みがチームを強くする。それぞれの選手達の個性を伸ばすイメージを強く持っているほど、その選手は良く育つ。組織の中では、選手が主人公であり、監督は母親のような立場に徹することだ。

心理学における心理的行動の1つで、教師の期待によって学習者の成績が向上することである。

1964年にアメリカ合衆国の教育心理学者ロバート・ローゼンタールによって実験された。 ピグマリオンという名称は、ギリシャ神話を収録した古代ローマのオウィディウス『変身物語』(”Metamorphosen”、訳に『転身物語』とも)第10巻に登場するピュグマリオン王の恋焦がれた女性の彫像が、その願いに応えたアプロディテ神の力で人間化したと言う伝説に由来する。

アイデア

世界で戦うためには、奇策が必要。定石どおりでは勝てない。

兵者詭道也

兵は詭道なり。

軍事の基本は敵を欺くことだ。

『孫子』

福原は天才で、その場その場で新しいことを試みては相手を出し抜くのが上手い選手だった。教えなくてもできる。一方で、教えなくては思いつかない選手もいる。だから、教えてできることと教えなくてもできることの見極めが必要だ。

おわりに

講演で一番印象に残ったのは、選手のキャリアと監督のキャリアは違うというところ。今まで何度も聞いた言葉だけど、改めてわかったのは、学べば、実力のない人間でも優秀な人間を育てることが出来るという点だ。僕は特段実績はないけれど、人を育てることは今からでも可能だ、という点に希望を持った。

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