口で伝えるにしても、文章で伝えるにしても、「熱意」が大事だと言われています。
古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、弁論には「論理」「熱意」「信頼」の三つが大切だと言いました。
3つとも備えていることに越したことはありませんが、「論理はむちゃくちゃだけど一生懸命に話している」と心が動かされる場合があります。
たとえば、子どもの主張に論理はありません。信頼も、正直あんまりできません。
しかし、熱意は常にマックス、全力で主張してくるので、大人はそのお願いを聞いてあげることがあります。
世界中で大規模な講演会を開いている『TED(テド)』という非営利団体があります。各分野の専門家、また専門家じゃなくても「何か伝えたいことがある」人がスピーチをします。
すでに2000以上のスピーチを無料で見ることができ、スピーチや英語の勉強に使っている方も多くいます。
多くのスピーチの中で、論理なしのスピーチを試みたアメリカのコメディアンがいました。聴衆にとっては、初めて会った、しかもコメディアン。つまり論理と信頼がありません。
情熱しかありません。アリストテレスのいう3要素のうち、1つしかないということです。そんな中でどれだけ聴衆を納得させることができるのか。
とても面白い動画なので見てみてください。
このように、熱意を持って自信満々に喋っているだけでもなんかすごいような気がしてきます。それほど「熱意」というのは重要な要素なのです。
準備はアナログで
情熱が伝わるプレゼンを行うにあたって重要なこと、まず一つ目は、「準備はなるべくアナログで行う」という事です。
シンプルプレゼンを行う際に厳守すべきするルール、それはアイデアを練る段階においてはパソコンを使わないことです。電源を切ってください。電源をつけっぱなしにしていると、メールは届くたびに思考や作業が邪魔され、せっかく良いアイデアが浮かんでも忘れてしまいます。p28
パソコンは世界とつながっています。コミュニケーションをとる上では便利なツールですが、アイデアは1人で静かにしてる時に、心にふっと湧いてきます。
インターネットの賑やかな画面、LINEやメールの対応に気持ちをとらわれていると、せっかく湧いてきたアイデアは、小さすぎて気がつかないことが多くあります。
パソコンは情報が多すぎる
また、パソコンに向かっていると脳の使う領域が限られるといわれています。
だから、実際に動き、五感で感じてみることが必要です。世界的な芸術家や小説家がアイディアに行き詰まったとき、散歩をしたり、まったく関係ないことをしているときに良いアイデアが浮かぶというのは、よく聞く話です。
環境作りが大事
1人静かなところで構想を練り、浮かんできたアイディアは、手書きで記録しておきます。
アップルやアマゾン、Googleといった企業では、真っ白な壁にアイデアを書いているそうです。
この本で勧められている方法は、付箋にアイデアを書いていくということです。私もブログ記事を書くときに使っています。
1つの付箋に、1つのアイデアを書いていきます。頭の中に入っているアイデアをストーミングを行って全部書き出してみます。
付箋にアイデアを書き散らす
そしたら、その付箋を話がつながるように順番を並べ変えていきます。
整頓する
この作業をパソコンで行うと、操作にいちいち頭を使わなければなりませんが、紙とペンなら思ったことをすぐに実行できます。
さらに、全体を俯瞰しながら作業ができるので、流れをチェックするのにも向いています。
付箋を並べ替える順番は、話が終わりに近づくにつれて良い情報が出るようにするということです。
例えば、会社の業績を報告するとき、話すべき内容には良いことも悪いことも含まれています。
最初に「来年は業績が良くなる」と言っておいて後で「今季は売り上げが良くなかった」とか「競合他社との比較」などの情報を出して話を終わらせてしまうと、話を聞いている方がモヤモヤしてしまいます。
そうではなく、はじめに「競合他社との比較」や「今季は売り上げが良くなかった」といった情報を出した後で「来年は業績が良くなる」という締め方で終わらせると、話にポジティブな印象を残して終えることができます。
プレゼンも1つのストーリーを語ることです。最後に最も重要な情報をもってきてハッピーエンドとし、そこに至るまでにたくさんの紆余曲折がある、という流れが聞いている方は受け入れやすいです。
プレゼンテーションやブログ記事で目的とするのは、話を聞く前と後で聴衆が良い変化をなしているということです。聴衆にどうなって欲しいのか、それを考えて話を組み立てていきます。
すべてのプレゼンは、聴衆のアーク(円弧)を考えることから始まります。聴衆の意識や行動をどういう状態(ビフォー)からどういう状態(アフター)に変えたいかを考えるのです。何よりも優先して行う作業です。p50
聴衆を刺激するビジュアルについて
情熱が伝わるプレゼンに必要なもの、二つ目はビジュアルです。
人は「目」から入ってくる情報にとても敏感です。
インターネットの世界でも、今までは文字で情報を伝えることが主流でしたが、現在はYouTubeやInstagramも使い、写真、映像でメッセージを伝える傾向が強まっています。
一説によると、情報を言葉だけで得た場合、3日後には10%しか記憶に残らないといいます。
しかし、そこに画像を加えると60%まで記憶に残るそうです。言葉と画像を合わせることで、記憶の定着率が高まります。
さらに、言葉は同じでも画像を変えると、見た人の行動が変わることが実験で証明されています。
このことは、私たちが画像からもメッセージを受け取っているということです。
ためしに、同じ文章にいろいろな画像をくっつけてみます。
たとえば、以下のデータがあります。
「たくさん飲むんだなあ」と思いますね。
これに様々な画像を加えてみます。
夏といえばキンキンに冷えたビール!というイメージですね。
「ビールの飲みすぎで環境破壊が深刻である」というメッセージになります。
「体のことを考えて」というメッセージです。
このように、画像でメッセージが変わります。
つまり、デザインには「力」がある。プレゼンの目的が、聴衆をどう変えたいかといった変化を促すものである事は先ほどいいましたが、それをアシストしてくれるパワフルなツールなのです。
その意味で、デザイナーになる必要までは無いにせよ、デザインを理解しておくことは極めて重要です。p61
一番熱意が伝わるのは、話し方
熱意を伝える上で一番重要なのは、やはり話し方です。
スピーチを聴きに来る聴衆は、スピーカーの熱意を感じに来ています。
プレゼンの実施段階で、聴衆が求めるキーワードは2つあります。1つが「エモーション(感情)」。自分の内からわき上がる感情を引き出し、聴衆に伝えること。もう1つが「コネクト(つながり)」です。聴衆は、プレゼンターや他の聴衆とつながる機会を求めています。p94
アーティストの熱気(エモーション)を感じに、人はライブに行きます。楽曲だけ聞きたいならYouTubeで足りるわけです。
また、アーティストや他の観客と一体感(コネクト)を感じられるのもライブならではの魅力です。アーティストとの距離がより近いから、B席よりS席の方が2倍も値段が高く設定されていたりします。
YouTube視聴の通信費とライブのS席の値段を比べたら1000倍の差があるし、YouTubeなら30秒で視聴できるのに対してライブ会場へは移動に1時間2時間、熱心な方だと前日から深夜バスで向かいます。興味のない人から見ると明らかにムダが多いのですが、それでも人はライブに行きます。
なぜなら、熱気を感じたいからです。
スピーチも同じです。本書で著者が「みんなスライドを見過ぎ」と指摘されているのですが、人の前に立ってスライドばかり見て話したり、原稿棒読みでは、スピーチである必要がありません。
校長先生の話が眠くなるのは、熱意がないからだと、私はこの年になって悟りました。「別にみんなの前で話すことでもないじゃん」と心のどこかで思っているその邪念をかき消すために眠いのだと。そういう結論に至りました。
熱意を持って話すと言っても、ライブのように洗練されている必要は全くありません。「裸」であればいいんだと、著者は言います。
一例として、この動画が紹介されていました。
「なにこれwアメリカの笑いはよくわからんwww」と思うところですが、彼は一発芸人ではなく、Microsoftの当時のCEOです。私たちは、彼が作ったWindowsパソコンを使っているのです。
ここまではしないとしても、話し手の気持ちが伝わることで、聴衆は「面白かった。来た甲斐があった。」と感じるようになります。必要なのは、話し手の内側から湧き出てくる「熱意」です。
ブログでも同じです。熱意を持って書くと、それが読者に伝わります。
おわりに
TEDには日本人スピーカーも登壇します。さまざまな動画を見ていて気づくのは、欧米人は堂々としてるということです。
とても素晴らしい物語を切々と語るのが日本人で、データを駆使して堂々と話すのが欧米人。そんなふうに見えます。
日本人が「熱心に話す」能力を手に入れたら、鬼に金棒だと思います。