星新一さんのショートショートをAIで作ろう、という試みがあります。
その出来栄えについては今後精度が上がっていくのだと思いますが、星新一さんの発想法を学ぶ限り、AIには人間並みの小説を書くことはとても難しいように私は思いました。
難しいと思う理由は、AIには表現の制限がないので、何が常識で何がフィクションなのかの分別ができないように思われるからです。
これはお笑いでも同じことが言えますが、面白さというのは、ある程度の逸脱さはあるが外れすぎないバランスが肝要です。お笑いでも小説でもその他何かの意見をするにしても、外れすぎるとそれは「面白いを通り越して不快」という事態になってしまいます。
また、AIには悩みもありません。小説は結局のところ現実にある矛盾や葛藤をフィクションという形で表現したものです。直接的に表現するとカドが立つような考え方や不都合な真実、社会問題、叶えたい夢、不満などを、想像の人物や世界で包んで表現することです。柔らかな訴えです。
もしAIが人間の悩みを完全に解釈して創作をするとしたら、人間にとってはAIが悩みのタネになります。すると人間の悩みを解釈するAIが最終的に出す結論は「AIを壊すべき」という自己矛盾に陥ってしまいます。ターミネーターの世界です。
ですから、AIには人間ぽい動作を表面上真似する「弱いAI」は可能ですが、自ら創造的なものを作る「強いAI」は非常に難しい。
だから、AIが活躍するこれからの世界では、人は積極的に創作の領域に踏み込んでいくことが必要だと思います。
そこで、この記事では星新一さんから発想法を学んでみたいと思います。
「アイデアを発想すること」星新一さんはこれを「異質なものを組み合わせて新しいものを作る」といいます。その方法は「無意識に浮かんでくるものを掴むこと」だといいます。
よく 、書斎のなかを 、いつのまにか歩き回っている 。自問自答をやっているのである 。そのことに 、最近になって気がついた 。発想の前段階といったところか 。なにを自問自答していたのかとなると 、ぜんぜん思い出せない 。無意識の部分を引っぱり出す 、ひとつの手段なのかもしれない 。 ( 「きまぐれエトセトラ 」角川文庫 )
「新しいものはあるものとあるものを組み合わせである」とは昔から言われていることです。
組み合わせというと大量のデータの中からマッチするものを合わせるロジカルな作業のように思えますが、そうではなく「言語化されていないが両者に共通する部分を見つけること」です。とても抽象的な作業です。
ショートショートを教える講座というものがあって、そこでは「単語と単語を組み合わせて不思議な言葉を作ること」を教えているそうです。
9月11日にショートショートを書く講座に行ってきました。講師はショートショート作家の田丸雅智さんとゲーム作家&ライターの米光一成さん。
この講座は「このワークシートに従ってやっていけば、必ずだれでも超ショートショートを書けるようになる」というスキームを教えてくれるもので、実際短時間で全員が書けるようになっていました。
どういうフローになっているかというと、
1.いろんな名詞を20個くらい探して書く(A群)
2.その中から1つだけ名詞を選んで、そこから連想した言葉を10個書く(B群)
3.A群の単語とB群の単語を組み合わせ、「不思議な言葉」をつくる
4.不思議な言葉から想像を広げる(この言葉ってどういう意味?)
5.想像したことを短い物語にまとめる
6.完成!
一見すると関わりのないように思える単語が結びついてストーリーができる。これが新しいものを作る方法です。“化学反応”と言うこともありますね。
漫画『ワンピース』を描いている尾田栄一郎さんは、いつも「キャラとキャラの組み合わせでどういうやりとりが起こるか」を考えているそうです。
たとえばゾロとサンジだったらケンカになってそこからドタバタが起きます。サンジとナミだったらサンジが鼻血を吹いて行方不明になります。ナミとルフィだったらルフィがナミの説明を理解しなくてフルボッコにされます。そんなふうに誰かと誰かの化学反応で新しいストーリーが展開されていきます。
まず 、ものにこだわることです 。異質なものを見つける 。これを結びつけるためにものをそれぞれ要素分解していくでしょ 。おかしなものですな 、全然違うものなのに似た部分や関連したつなぎが見えてくるようになる 。もっとも勝手に共鳴しあってくれるまでやめないからなんだが 。 ( 「スタ ー ・ワ ーズ 」樹立社 )
まずはいろいろなものをガチャガチャと組み合わせてみることが新しい発想の第一歩です。