先日こんなニュースを読みました。
「シミュレーション仮説」がシリコンバレーで大流行 / NEWS PICKS
今シリコンバレーでは「シミュレーション仮説」という考え方が流行っています。
シリコンバレーという単語、覚えておくとよいですよ。なぜかというとシリコンバレーという固有名詞には強いブランド力があるので「シリコンバレーではね」と言っておけば「こ、こいつやるな」ってみんなに思われますから。ニュアンスとしては「スタバ」と似ているところがあり、リア充アピールするときにうってつけの表現です！しかし副作用として「スカした嫌味なやつ」と思われる可能性がありますので用法用量を守って正しくお使いください。
ちなみにシリコンバレーの場所↓。
さてシミュレーション仮説とは何かというと、「この世の中は誰かがシミュレーションした世界」という考え方で、わかりやすくいえば映画『マトリックス』の世界です。もっとざっくり言うなら「現実とは夢の中のようなものだ」ということです。映画『インセプション』の世界。
考え方としてはけっして新しいものではないのですが、この考え方がテクノロジーの最先端であるシリコンバレーで流行っているところが新しい。
これまでテクノロジーは思想とは関係なく「より高速に」「より便利に」という方向で進んできたのですが、そうした流れとはずいぶん異なったベクトルを持っています。
「現実は本当の世界ではない」という考え方は大昔からあるんですよ。
たとえば古代ギリシャの哲学者プラトンは「イデア論」というのを唱えて、この世界は「イデア（アイデア）」の影を見ている世界だといいました。
時を同じくしてインドではブッダが誕生し、この世の理不尽さを目の当たりにして修行に励み、ついにこの世のむなしさを悟って「諸行無常」という言葉を残しました。日本では鎌倉時代の『平家物語』で引用されます。学校で習った「諸行無常の響きあり」というやつです。
祗園精舎の鐘の声、
諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、
盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、
唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、
偏に風の前の塵に同じ。
「ただ春の夜の夢のごとし」だってよ。やっぱり夢なのかも。
プラトンや釈迦が活躍した約400年後にはイスラエルでイエスキリストが生まれ、やっぱり「この世は天国のひな型に過ぎない」ということを言います。
時が経って哲学者デカルトは「我思うゆえに我あり」という言葉を残しました。「自分が存在するのは客観的証拠によるのではない。自分が自分を考えているからだ。」という意味です。
カントも「我々が見ている世界は、生まれつき備わった鋳型で加工されたものである」という理論を展開しています。
こうしたすっごい古くからある思想が、今科学と結びついて再発見されようとしているところが新しいです。
量子論では「観察されないものは存在しない」というのですが、これも先人が残した言葉に似ていますね。
私たちの見ている世界がいかに曖昧なものであるかについては、先日VRのことを記事にしたように、人が錯覚に陥りやすいのだということからもわかります。
シリコンバレーでシミュレーション仮説を強く支持しているのがイーロン・マスクという経営者で、この人はまったくの無知な状態から一人で勉強してロケットを作ったり自動運転の車を作ったりしている、世界で最も優秀な経営者の一人です。
OnInnovation Interview :Elon Musk
きっといろんな事業を生み出す中で、「この世界って思ったことが現実になってる世界じゃん」って思ったんでしょうね。そうそう『思考は現実化する』という書籍も有名です。
この考え方は、今まで自分の外にあるものが現実だと考えている私たちを、実は自分の中にあるものが現実なのだという考えに転換させようとしています。
なんか天動説から地動説に変わる話のようで、今までと考え方が180度変わってしまいますね。
イーロン・マスクはそのことを気にしてか、シミュレーション仮説については時が来たらもっと詳しく話すといっています。今はまだ彼の思想に人々がついていけないってことでしょうか。ガリレオか！
おわりに
大学の時に哲学を学んでいた自分としては、これから科学と思想が歩み寄っていくことになるのかが気になるところです。